東京地方裁判所 昭和58年(特わ)241号 判決 1983年5月25日
本店所在地
東京都練馬区田柄一丁目六番二号
株式会社ミツク
(右代表者代表取締役北川幹夫)
本籍
三重県鈴鹿市三畑町五〇七五番地
住居
東京都東久留米市小山三丁目一〇番二四号
会社役員
北川幹夫
昭和七年三月二二日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。
主文
(一) 被告人株式会社ミツクを罰金一、一〇〇万円に処する。
(二) 被告人北川幹夫を懲役一〇月に処する。
(三) 被告人北川幹夫に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社ミツク(以下「被告会社」という。)は、東京都練馬区田柄一丁目六番二号に本店を置き、ディスプレイ器具の製造販売及び賃貸等を目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人北川幹夫は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人北川は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四、八五七万六八八円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五五年二月二八日、同都練馬区栄町二三番地所在の所轄練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、二五三万七、七五五円でこれに対する法人税額が七七七万八、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第五九九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一、八一七万六、一〇〇円と右申告税額との差額一、〇三九万七、二〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、二四二万六、四八六円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年二月二八日、前記練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、九一七万六、八三一円でこれに対する法人税額が一、〇三六万六、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額三、一六五万一、一〇〇円と右申告税額との差額二、一二八万五、一〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
第三 昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四、七三四万六、七七八円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五七年三月一日、前記練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、七九二万三三三円でこれに対する法人税額が一、〇二二万二、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額一、八三七万円と右申告税額との差額八一四万七、六〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の(一)当公判廷における供述
(二)検察官に対する供述調書
一 生田秀司、小原勤の検察官に対する各供述調書
一 小林豊の収税官吏に対する質問てん末書
一 大蔵事務官作成の証明書
一 収税官吏作成の(イ)売上高調査書
(ロ)その他の売上・仕入高調査書
(ハ)期首商品棚卸高調査書
(ニ)仕入高調査書
(ホ)期末商品棚卸高調査書
(ヘ)厚生福利費調査書
(ト)旅費交通費調査書
(チ)交際接待費調査書
(リ)諸税公課調査書
(ヌ)受取利息調査書
(ル)雑収入調査書
(ヲ)支払利息調査書
(ワ)価格変動準備金戻入益調査書
(カ)価格変動準備金繰入損調査書
(ヨ)交際費の損金不算入額調査書
(タ)事業税認定損調査書
(レ)預金調査書
一 押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五八年押第五九九号の1ないし3)
(法令の適用)
法律に照らすと、被告会社の判示第一及び第二の各所為は、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、いずれも同条二項を適用し、同第三の所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するので同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により罰金の合算額以下で処断し、被告人の判示第一及び第二の所為は、裁判時においてはそれぞれ法人税法一五九条一項に、行為時においてはそれぞれ前記改正前の法人税法一五九条一項に該当するので、刑法六条、一〇条により軽い行為時法を適用することとし、同第三の所為は、法人税法一五九条一項に該当するので、以上三罪につき、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い第三の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断するが、ここで情状について考えると、本件は、被告人北川の統括する被告会社において、会社の不況時に備えるため裏資金を蓄積し、かつ被告人ら役員が役員賞与の支給を受けていなかったことから、小遣いを捻出するため、判示の犯行に及び、結果として三事業年度に亘り、合計約三、九八三万円の法人税を免れたという事案であり、犯行の動機において格別斟酌に値するものがなく、犯行の態様においても多数の勘定科目につき不正経理を行ない、仕入の一部につき取引先と通謀した水増計上をするなど巧妙かつ悪質というべきであるが、結果としてのほ脱税額が前記の程度であり、かつほ脱率が合計で約五八パーセントであること、被告人は犯行後率直にその非を認めており、公判廷においても公訴事実をすべて認めて改悛し、会社の経理内容をガラス張りにするような組織上及び業務上の改善措置を講じ再び犯行に及ばない旨誓っており、被告会社においては、本件ほ脱税額に関し、これを認める修正申告を行い、本税を納付ずみであり、附帯税等についても徴税当局と話し合いのうえ、逐次支払う準備をすすめていること等有利な事情も認められるので、右各処断刑の範囲内で被告会社を罰金一、一〇〇万円に、被告人を懲役一〇月にそれぞれ処し、なお、刑法二五条一項を適用して被告人に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
よって、主文のとおり判決する。
検察官 五十嵐紀男、弁護人 大西昭一郎 各出席
(求刑・被告会社につき罰金一、三〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)
(裁判官 小泉祐康)
別紙(一)
修正損益計算書
(株)ミック
自 昭和54年1月1日
至 昭和54年12月31日
<省略>
<省略>
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
(株)ミック
自 昭和55年1月1日
至 昭和55年12月31日
<省略>
<省略>
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
(株)ミック
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
<省略>
<省略>
<省略>
別紙(四)
ほ脱税額計算書
(株)ミック
自 昭和54年1月1日
至 昭和54年12月31日
<省略>
自 昭和55年1月1日
至 昭和55年12月31日
<省略>
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
<省略>